コラム

有機ELディスプレイという選択肢。液晶との違いや導入のメリットを解説


通常、パソコンのディスプレイといえば液晶でしょう。しかし昨今、有機EL(OLED)ディスプレイが数を増やしつつあります。新たに登場した、有機ELという選択肢。今回の記事では、有機ELと液晶の違いや、導入のメリットを具体的に解説していきます。

【執筆者紹介】
畑野壮太
PC・ガジェットなどのジャンルを得意とするライター・家電製品総合アドバイザー。GetNavi、ASCIIなどのメディアを中心に、執筆活動を行っている。自作PCを愛用しており、パーツはコスパ重視で選ぶ主義。数千時間プレイしたタイトルがあるほどのゲーマーでもある。

有機ELの特徴と、液晶との違い

まずは、有機ELの特徴と、液晶との違いについて解説します。有機ELのELとは「エレクトロルミネッセンス」の略。この言葉は、「電気で発光する」ことを意味しています。有機ELディスプレイの仕組みはこの言葉の通りで、有機物を電気の力で発光させて映像を映し出しています。

有機ELの最大の特徴は、画面そのものが発光するということ。これが液晶との最大の違いでもあります。液晶の場合、液晶パネルの背後にあるバックライトが発光することで映像を映し出しますが、有機ELならそのバックライトが要りません。この違いが、有機ELと液晶の多くの差異を生み出しています。主なポイントを下記に列挙していきます。

  • 画面の厚み:有機ELのほうが薄い

有機ELは画面そのものが発光するため、ディスプレイは1層構造。画面がかなり薄いので、コンパクトに設置できます。一方の液晶は、バックライト、液晶パネル、カラーフィルターの3層構造です。有機ELと比べて、画面が分厚くなってしまいます。

  • コントラスト:有機ELのほうが優れる

有機ELは液晶に比べて、明暗の差がある、メリハリのきいた映像を映し出せます。その差が特に強く現れるのは、黒色の表現です。有機ELが黒色を映すときは、その部分を全く発光させないので、完全な黒を表現できます。しかし液晶の場合、黒の部分にもバックライトの光が当たってしまうため、どうしても白みが出てしまいます。

  • 視野角:有機ELのほうがやや広い

有機ELディスプレイの視野角は、ほぼ180度です。しかし液晶でも、IPS液晶であればかなり広い視野角があるので、他の項目と比べたら双方の差は大きくありません。

  • 画面の明るさ:液晶のほうが明るい

最大の明るさで比較した場合、バックライトがある液晶のほうが優れています。それだけ、液晶のバックライトは明るいのです。有機ELの画面を屋外で使用すると暗さを感じることがありますが、パソコンのディスプレイであればそのようなシチュエーションは想像しづらいため、考慮に含める必要はないでしょう。

  • 消費電力:有機ELのほうが少ない

有機ELは、同じサイズのディスプレイの場合、液晶に比べて少ない電力で駆動します。これは、液晶のバックライトが多くの電力を消費するためです。

  • 寿命:液晶のほうが長い

有機ELの寿命は、液晶と比べて短いとされています。これは、発光する有機物の劣化が早いことと、残像の焼きつきが多いことに起因しています。ただし近年では、耐久性が向上する傾向にあります。

  • 価格:有機ELのほうが高い

長年生産され続けてきた液晶に比べ、有機ELは製造コストが高く、価格も高価になります。今後、有機ELの普及拡大とともに安くなってくる可能性はありますが、まだまだ長い時間が必要になるでしょう。

総じて、どちらも一長一短であり、明確に「どちらがいい!」という議論にはなりません。ユーザーのニーズに応じて使い分けるべきです。では、どのような人が、有機ELディスプレイを買うべきなのでしょうか。

有機ELディスプレイ導入のメリットは、映像の美しさに尽きる

有機ELディスプレイ導入の最大のメリットは、映像が美しいという点に尽きるのではないかと、筆者は考えています。画面の薄さや消費電力の少なさも確かに魅力的なのですが、これが感動をもたらすかといわれると断言はできません。筆者の感覚では「スタイリッシュだな」「助かるな」という程度にとどまります。

一方で、映像の質の違いは誰が見ても明らか。黒色の深さの差は特に明確です。液晶の映像がバックライトの影響で全体的に白っぽさが出てしまうのに比べ、有機ELが映す色には生々しさがあります。これは、有機ELの唯一性といえるでしょう。画面が大きくなると、その新鮮な色の表現は、より迫力を増します。

↑ギガバイトの有機ELディスプレイは、Samsung製のQD-OLEDパネルを採用。コントラスト比は150万:1で、液晶とは比べ物になりません。また、表示できる色域が広く、色再現性が高いのも特徴です

スマホなどの小型デバイスの画面は有機EL化が進んでいるので、有機EL自体に触れたことがあるという人はかなりの数いるでしょうが、30インチ以上のそれを見たことのある人となると、数は減るはず。ぜひ一度その魅力を、ご自身の目で味わってほしいところです。筆者の体感を一言で表すならば「一度見れば欲しくなる」。価格が高いのでお財布との相談にはなるものの、確たる魅力を秘めた製品です。

なお、有機ELの魅力を手軽に体験するのであれば、家電量販店などのテレビ売り場に行くのがおすすめ。テレビとパソコンのディスプレイという差はありますが、有機ELと液晶との違い、有機ELの映像の美しさをご自身の目で確かめられます。

寿命の短さは、技術進歩によって改善の傾向

前述したように、有機ELには、寿命の短さという欠点があります。ただしこれも、近年では改善の傾向が見られています。

特に、同じ画面を長時間表示したときに残像が焼きつきやすいという問題には、根本的な解決策になりうる機能が登場しています。それは、表示されている画像のドットを時間経過によってわずかにずらすことで、同じ色を映している時間を短縮し、焼きつきを防ぐというもの。ギガバイトの有機ELディスプレイならば、AIベースのアルゴリズムを用い、画面焼けのリスクを最低限に抑える技術「GIGABYTE OLEDケア」を搭載しています。

↑GIGABYTE OLEDケアの動作は、ディスプレイのメニューから詳細に設定が可能です

また寿命の伸長を証明するかのように、液晶ディスプレイと同等の保証期間を設定するメーカーが増えています。ギガバイトの有機ELディスプレイの場合、3年保証で、画面焼けもその範囲に含まれています。従来よりも、安心して購入できる環境が整ってきているといえるでしょう。

実は、大型モデルが売れている!?

ギガバイトの有機ELディスプレイは、27インチと31.5インチの2サイズがラインナップされていますが、担当者に聞くと、売れ筋は31.5インチなのだそう。価格で見ると、27インチ(FO27Q3)は16万2000円、31.5インチ(FO32U2)は20万8500円で、4.5万円以上の開きがあります。それでも、大画面モデルが支持されているのだといいます。

↑2024年5月17日発売の、FO32U2。31.5インチで4Kに対応したゲーミングモニター。応答速度は0.03ms、リフレッシュレートは240Hz

この要因は「価格が高くとも、より大きな画面で美しい映像を見たい」というユーザーが一定数いるからだと思われます。唯一性のある映像美という有機ELの特徴が、製品の売れ行きにも表れているといえるでしょう。なお解像度の面で、FO27Q3がQHDなのに対し、FO32U2は4Kに対応しています。その点も含めて、価格差が5万円未満なら4Kに対応しているものを選ぶ、という人が多いのかもしれません。

値こそ張るものの、液晶では決して叶えられない美麗な映像を映し出す有機ELディスプレイ。本格的な普及はまだまだこれからではありますが、今後注目のアイテムになることは間違いないでしょう。

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